下北沢実証トライアル
今回の物語では、佐竹祐介、式守哲郎、吉岡沙織の天狗まつりを企画・運営する天狗まつり実 行委員会に所属する3人組が登場する。彼らは、下北沢に昔から住む幼馴染みである。彼らは 2月上旬に開催される「第78回下北沢天狗まつり」に向けて準備をしていたが、最近、街に天 狗参上と書かれたお札や黒い羽根を貼り、天狗まつりのフライヤーに落書きをする者が現れ、 祭りの準備が遅れる被害があった。参加者達は祐介達が街を荒らす者の正体を暴くのを手伝う ため、真竜寺に集合する。しかし、その場に祐介達はおらず、お札や羽根が貼られた机と椅子 だけが散乱していた(図11)。
しばらくすると、祐介からのメールが届き、5チームに分かれて、 図12が示す祐介達が待つ場 所へ移動する。
そして、彼らから街を荒らす者からの挑戦状を受け取る(図13、図14、図15)。
図13
そして、チームごとに写真に写る看板の文字を探し出し、答えが示す「Cafe&Bar Comp.」、 「下北沢東洋百貨店」、「レンタルボックス 下北沢巧房」、「真竜寺」、「しもきた商店街 振興組合」へ向かう。そこで、各々天狗や天狗まつりに関連する文章や道具を手に入れる。沙 織と同行したチームは、「下北沢東洋百貨店」でお札と黒い羽根が貼られた一本歯下駄1足を 手に入れる(図16)。その後、沙織は以前まで「下北沢天狗まつり実行委員会」に所属してい て、街中に貼られたお札をデザインした田中五郎という男の元へ行くため、参加者と別行動をする
参加者達は各自が手に入れた文書や道具を全員と共有するため、真竜寺に集まり、各自の成果 を発表する(図17)。全チームの発表が終わり、各自が事件を起こしている犯人を推理している と、突然知らない番号から電話がかかってきて、沙織が誘拐したことが告げられる(図18)。そ の事から、電話口の男が田中五郎であり、下北沢の街を荒らした張本人である事がわかる。
参加者達は再度チームに分かれて、五郎が指定した場所である「The Study Room」、「マク ドナルド」、「ヴィレッジ・ヴァンガード」、「無印良品」、「Sham」へ行き、巾着袋を手 に入れる(図19)。その中には、パズルと謎を解くヒントが書かれた紙が入っている。
参加者達はパズルを解いた後、王将の前で集まり、各自手に入れた情報を共有する(図20)。 そして、答えが指し示す「Times 北沢第5駐車場」へ行き、車の中で手錠に繋がれた沙織を 発見する(図21)。
その直後、沙織の携帯電話に五郎から電話がかかってきて、一連の騒動は自分が企画した「下 北沢天狗まつり」の実施が目的であったと明かす。そして、参加者達が辺りを見渡すと、そこ には天狗のお面をかぶった五郎が参加者達を眺めており(図22)、手錠の鍵を持つ自分を捕まえ てみろと言い残し、走り去る(図23)。
(図22)
参加者達は哲郎の指示の下、チームに分かれて逃亡した五郎を追いかけ、彼を挟み撃ちにして 捕まえる(図24)。そして、五郎が企画した「下北沢天狗まつり」を体験した哲郎達は、この企 画を評価し、夜に開かれる「下北沢天狗まつり実行委員会」の会議に提案する事にした。哲郎 達と五郎は、軟禁に使った車を走らせ、会議に向かうのであった。(図25)
概要説明と写真を交えたあらすじの説明で、第2回トライアルがどういった規模、内容のもの だったのかイメージできたと思う。いくつかの点において第1回と条件が異なるので、その点 について説明する。 第2回トライアルは、「ARGの面白さ」を重視し、企画設計した。下北沢の街を回遊してもら うことも取り入れつつ、ARGの特徴である、物語世界への没入感や暗号解読の要素をメイン に据えて設計した。そのため、設計上重視した点が2つある。 a)全チーム協力してARGを体験する b)登場人物と直接対面でコミュニケーションをとるスタイル aについて説明すると、第1回とは異なり、5チームが同じゲームを同時に協力しながら解き進 めていく形式となっている。内容紹介でも説明したように、5チームがそれぞれ5箇所に散ら ばり、その目的地にてそれぞれが異なる体験をする。そして、その情報を一旦全員と共有する ために再び集合するといった形式であった。これは、自分の力だけでは謎を全て解くことは できないことを意味している。しかしその代わりに、自分のチームが得た情報が他のチームに 役立つというシーンを演出できる。これはARGの面白さの1つであり、第1回トライアルでは 出来なかった要素である。 具体例を使って説明する。 図26は、あるチームが街中を探しまわって見つけた、手がかりの一部である。
これは見ての通り、バラバラになってしまった地図である。これらをパズルの要領で1つの地 図につなぎ合わせる作業はこのチームだけでもできる。しかし、この地図は区画ごとに色で区 別がなされているが、それが何を意味するのかはこのチームだけでは分からない。そのた め、他のチームが得た別の手がかりとあわせて謎の解明にあたらなくてはならない。 このとき別のチームでは、どの色の区画を目指すことが正解なのか、についての手がかりを得 ていた。そしてその事実をケータイのメーリングリストを通じて共有しあうことで、お互いの 得た情報がそれぞれにとって役に立つといったシーンが演出できたのだ。この瞬間の興奮 は、多くのチームで見られた。 結果、このように多くの参加者が熱中した(図27)。
(図27)
次に、bについて説明する。第2回では、第1回とは異なり、登場人物と参加者が一緒になっ て謎解きを進めていく形式をとった。ケータイメールでのやり取りももちろんあるが、大部分 は直接口頭でコミュニケーションする形式であった。第2回トライアルにおいてこのような形 式を採用したのには理由がある。それは、ドラマチックな演出をするためだ。ドラマチック な演出というのは、参加者をワクワクドキドキさせるために必要不可欠な要素であり、 「ARGの面白さ」を重視した第2回トライアルにおいては必須の要素であった。 では、なぜ登場人物と参加者が共に行動することが、ドラマチックな演出を生むことにつな がるのか、図28を使って説明する。
これは各チームが5箇所に散らばってそれぞれが別々の手がかりを得て、再び集合した、情報 共有のときの話しである。それぞれが、こんなことがわかった、こっちではこんなものを見 つけたと議論をしている最中に、突然参加者のケータイに見知らぬ電話番号から電話がか かってくる。それは、今回の事件を引き起こしていると疑われていた天狗からの電話であり、 27 その内容は、登場人物の1人である沙織を誘拐したというものであった。上の写真はそのシー ンである。このギミックは、第2回トライアルで実施したギミックの中でも、1、2を争う人 気のギミックであり、詳しくは後述するが、参加者の満足度も非常に高いものとなってい た。 話しをもとに戻すが、このワクワクドキドキするギミックを演出するために、登場人物(運営 側)が参加者と共に行動する必要があったのだ。図29を見て頂きたい。
図29
これは、情報共有で皆が意見を言い合っているシーンであり、また天狗から電話がかかってく る前の状態である。矢印で示した人物はこのARGの登場人物の1人であり、同時に運営側の 人間である。そして、この人物が、議論がだんだんと混乱してきて次の展開が必要だと判断す ると、自分のメガネを外す仕草をするということが事前の打ち合わせで決まっていたのだ。 そして、それを見た別の運営側の人間が天狗役である別の運営側の人間へワンコールをする。 それを受けたあとに、今度はその天狗役の運営側が天狗を名乗り、参加者にランダムで電話を かけていくという流れになっていたのだ。以上の流れをまとめると、
登場人物が、情報共有が混乱してきたと判断する
→自身のメガネを外す
→別の運営者が天狗役にワンコールする
→それを受けて参加者に天狗を名乗って電話をかける
となっている。 これによって、議論が混乱し、そろそろインパクトのある次の展開が欲しいなと思った瞬間 に、効果的なタイミングでドラマチックな演出をすることができたのである。これは、第1回 トライアルのように登場人物と参加者がケータイメールを中心にコミュニケーションしている だけでは、到底できない演出である。運営側が参加者と共に行動していたからこそ、臨機応変 に、適切なタイミングで演出をすることができたのである。この意味で、「ARGの面白さ」 を重視した第2回トライアルにおいて、運営側と参加者が共に行動しているという要素は、非 常に注目すべきであった。 最後に、もう1つだけ注目すべきシーンを説明する。次の図30~図32を見て頂きたい。
これは最後のギミックとして用意した鬼ごっこのシーンである。参加者たちは全ての謎を解明 し、誘拐された沙織を救出した後、犯人である天狗(山田五郎)を追いかけて捕まえる内容だ。 29 このギミックに関しては、私たちが予想していた以上の人気だった。住宅街を走り抜け、天狗 の姿が見えた瞬間は参加者たちはこぞって天狗を追いかけた。そして最後には、タックルをし て捕まえようとするほど熱中していたのだ。 単なる鬼ごっこではある。しかし、参加者は皆熱中していた。これから分かったことは、鬼 ごっこのような身体性を伴うギミックは、普段できないような体験であるため人気があるの ではないかということである。これについては、思わぬ発見であった。